万城目学さん(俳優)のオススメ本・マンガ・映画・ドラマ

【万城目 学さんのお薦め本01】

ddnavi.com

 

「一番理由がわかってもらいやすいのはナンシー関の『お宝発掘! ナンシー関』でしょう。ナンシー関はアラフォー以上のサブカル好きなら必ず知っているコラムニストで、彼女の辛口エッセイは一世を風靡しました。コキおろすでもなく生殺しでもない、独特の鋭い切り口が高い評価を受けていた。腐臭を放つ偽善的ななにかを嗅ぎ分けるセンサーは、没後10年が経った現在でも全く色あせていません。
 だけど、話題が1990年代のテレビネタ中心なので、今読むとわからないところがいっぱいあるんです。かなりテレビっ子だった僕でもピンとこなくなっているから、今の若い人はもうチンプンカンプンでしょうね」

 確かに時事ネタ、なかんずくテレビネタは廃れるのが早い。書籍ではコラムにもかかわらず脚注がついているのだが、その脚注ですら何のことかすでに思い出せないものが少なくないのだ。

ナンシーさんの文章って本当に素晴らしいんですよ。切れ味といい、着眼点といい。僕は大ファンでした。でもコラムの性質上、ネタの新鮮さと文章力が車の両輪になっていた面は否めない。その片側である『ネタ』という車輪が朽ち果てつつある。おそらくあと数年で『ネタ』そのものへの記憶が完全に世間から消えてしまうような気がするんです」ダ・ヴィンチニュースより

  

お宝発掘!ナンシー関

お宝発掘!ナンシー関

 

 

 同じく、時代性の強さが消滅を招くのではと危惧されるのが『麻雀放浪記』だ。

ホント面白いんですよね、この小説。僕が最初に読んだのは高校生の時でした。当時、学校で麻雀ブームがあったんですよ。『哭きの竜』という麻雀漫画が大ブームになり、みんな主人公の得意ポーズを真似するほど人気で(笑)。僕ももちろん麻雀にはまり、その流れで『麻雀放浪記』を読んだんです。
 でも、いまや麻雀人口が減っているというのがまずあって、さらに阿佐田哲也の作品を目にする機会も少なくなっていることから、このままではとっかかりそのものがなくなるのではと危惧しています」ダ・ヴィンチニュースより

  

麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)

麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)

 

 

 僕の中で『清兵衛と瓢簞』という作品は、短編小説の中でもSSクラスに入る作品なんです。芥川龍之介の『トロッコ』や『蜘蛛の糸』に匹敵するぐらいの。だから、とある雑誌のエッセイの題材に何の説明もなしに使いました。説明する必要などないと思っていたので。そうしたら、担当編集者が『この作品を知りませんでした。すごく面白そうです』って言ってきてびっくりしたんですよ。そこで、自分の担当の文芸編集者に片っ端から聞いてみたところ、なんと6人のうち1人しか作品を読んでなかった。その状況に驚くと同時に、これは大変よくない話だなと思いまして。プロの文芸編集者が今知らないということは、5年後10年後には、一般の読者から忘れられてもおかしくない。名作だから放っておいても大丈夫、というのはもう通じない。誰かが紹介しないと消えかねないんですよ。

 

 

清兵衛と瓢箪・小僧の神様 (集英社文庫)

清兵衛と瓢箪・小僧の神様 (集英社文庫)

  • 作者:志賀 直哉
  • 発売日: 1992/02/20
  • メディア: 文庫