『生命の不思議“テロメア” 健康寿命はのばせる!』ってことは瞑想でテロメアが伸る。

老化を防ぎ、若さを保ちたい。そんな願いをかなえると注目されている研究がある。ノーベル賞生物学者ブラックバーン博士らによる「テロメア」研究だ。染色体の端にあり細胞分裂のたびに短くなるため、年とともに縮むと考えられていたテロメア。ところがテロメアを伸ばして細胞から若返る方法があり、がんを防げる可能性もあるというのだ。それは日常で実践できる生活習慣。最新の研究から健康寿命を延ばす秘策と命の神秘に迫る。

出演者
石川冬木さん (京都大学大学院教授)
石川善樹さん (予防医学研究者・医学博士)
武田真一・田中泉 (キャスター)
生命の不思議“テロメア” 健康寿命は のばせる!

いつまでも若くありたい。
そんな健康長寿の夢が、ついに実現するんでしょうか。
私たちの細胞の中にある染色体。
健康長寿の鍵とされるのは、その端にある「テロメア」と呼ばれる部分です。
細胞分裂を繰り返すたびに短くなっていきます。
これが老化と深い関わりを持つと考えられてきました。
今、このテロメアの長さを伸ばして老化を遅らせ、がんなどの病も防ごうという研究が進んでいます。

テロメアを長くし、健康寿命をのばす、その秘策とは。
最新の研究成果を具体的にお伝えします。
老化・病気のカギを握る 命の回数券“テロメア
人はなぜ老いるのか。
そして、若さを保つにはどうすればいいのか。
この問いに正面から向き合い、注目されている生物学の書籍があります。
今年(2017年)1月に出版された、テロメア研究の集大成。
大きな反響を呼び、20か国以上で出版が決まりました。
著者は、ノーベル賞受賞者のエリザベス・ブラックバーン博士。
第一人者として、1,000人を超す科学者たちの成果をまとめ、健康寿命はのばせるという最新研究の到達点を示しました。

ソーク研究所 エリザベス・ブラックバーン博士
「健康長寿を手に入れるための重要な要素。それはテロメアです。病気にかからず、生産的に人生を楽しめる年数に、テロメアという部分が関わっているのです。」

そのテロメアとは、一体何なのか。
私たちの体を形づくる37兆個の細胞。
生きているかぎり分裂し、入れ代わり続けています。
例えば、皮膚の細胞。
活発に分裂を繰り返し、若い細胞を生み出し続け、1、2か月で新たな表皮に入れ代わっています。
この細胞分裂に深く関わっているのが、細胞の染色体の端にあるテロメアです。
正体は、塩基という化学物質。
細胞が分裂するたびに少しずつ数が減り、テロメアは短くなっていきます。
生まれた時は、およそ1万5,000ほどとされますが、35歳でおよそ半分に減少。
6,000を下回ると染色体が不安定になり、さらに2,000になると細胞がこれ以上分裂できなくなる「細胞老化」と呼ばれる状態に陥ります。
テロメアが減ると新たな細胞ができなくなるため、命の回数券とも呼ばれています。
私たち一人一人のテロメアは、実際どれくらい減っているのか。
それを確かめるため、健康が気になるアラフィフの男女10人に集まってもらいました。
血液を採取し、白血球のテロメアを調べます。
広島大学が立ち上げたベンチャー企業が分析を行いました。
その結果は、同じアラフィフ同士でもテロメアの長さはばらばら。
35歳相当の長い人から83歳相当の短い人まで、大きな個人差が出ました。


一体、何がこの差を生んでいるのか。
アメリカの最新の研究によって、あるものがテロメアの減り方を早めていることが解明されました。
心理的なストレスです。
家族を介護している女性たちを対象に調査を行ったところ、介護の年数が長いほど、テロメアが減って短くなっていました。
さらに、一般の人も集めて面接実験を行いました。
面接官があえて無愛想な態度を取ってストレスをかけ、それをどう感じたか面接の前後に聞き取りました。
すると、あるタイプの人たちだけ、テロメアが特に短かったのです。
面接が始まる前から強いストレスを感じる心配性の人々です。

カリフォルニア大学 サンフランシスコ校 エリッサ・エペル教授
「悪いことを予測してしまうタイプ、つまり、悲観的な人は、ストレスに反応しやすく、健康に悪影響があります。10代の若者や健康な人でも、悲観的であるほど、テロメアが短いことがわかったのです。」

テロメアが減少し短くなると、深刻な事態が起きうることが明らかになってきました。
テロメアと、がんとの関係を研究している、相田順子さんです。


40代以降の、がんの主な原因がテロメアの減少にあると考えています。
食道がんの患者から、がん細胞の近くにある細胞を取り出し、テロメアを調べました。
すると、テロメアが年齢平均より大幅に減り短くなっていたのです。

東京都健康長寿医療センター 研究所 相田順子副部長
テロメアが短くなってくると、染色体がどうしても不安定になってくるので、そうすると遺伝子の変異が起きやすいという状態になります。がんになりやすいというふうに考えられます。食道がんのほかに、口腔のがん、すい臓がんですね、皮膚がんもそうです。」

さらに、テロメア認知症などとの関係についても、新たな事実が分かってきました。
2,000人の脳の画像とテロメアを分析したところ、テロメアが減って短くなった人ほど、脳が萎縮していたのです。
特に、記憶をつかさどる海馬の萎縮が顕著でした。

ハンティントン医療研究所 ケビン・キング医師
「海馬が縮小すると、認知症のリスクや脳機能が衰えるリスクが高くなると考えられます。テロメアの短縮が、脳の老化に深く関係しているのです。」

生命の不思議“テロメア” 健康寿命は のばせる!
ゲスト 石川冬木さん(京都大学大学院教授)
テロメアや老化について研究している、石川冬木さんです。
人はなぜ老いるのか、その謎を解く鍵がテロメアにある?
石川冬木さん:テロメアが短くなりますと、細胞はやらなければいけない仕事をさぼってしまいます。
ですから、例えば皮膚の細胞はコラーゲンを分泌して、皮膚に張りを作るわけですけれども、テロメアが短くなってしまいますとそれをしません。
ですから、だんだんとお年を取ると、皮膚がたるんで、しわが出来たりするわけです。

テロメアは、ストレスによって縮まって、さらには病気にも関係しているという報告があったが、これはどういうこと?
石川冬木さん:例えば、お酒をたくさん飲んだり、たばこをたくさん吸ったりすることを考えましょう。
たばこをたくさん吸われる方は、のどや肺の細胞のテロメアが短くなってしまいます。
本来やるべき仕事をしませんから、だんだんと息が苦しくなってきたり、あるいは、場合によっては肺がんが出来たりいたします。
ですから、テロメアの短小化はそういった恐ろしい病気につながると考えられています。
(たばこやお酒が細胞にとってのストレスになると?)
その通りです。


田中:テロメアに関する新たな研究成果が次々と報告されていますが、このきっかけとなったのが、ブラックバーン博士たちによる、ある発見です。
細胞の染色体の端にあるテロメアは、年を重ね、細胞分裂するたびに短くなっていく一方だとされていました。
その常識を覆したのが、ブラックバーン博士たちが発見した酵素「テロメラーゼ」です。
テロメラーゼは、テロメアが短くなるのを遅らせたり、さらに伸ばしたりする働きもあります。
これによって、細胞を若返らせる可能性が出てきたんです。
この発見で、ブラックバーン博士たちはノーベル賞を受賞。
そして今、どうすればテロメラーゼを増やし、テロメアを伸ばすことができるのか、研究が進んでいます。

あなたにもできる “テロメアをのばす”習慣とは?
アメリカでは、自宅でもできる簡単な方法でテロメラーゼを増やすことができないか、実験が行われました。

カリフォルニア大学 ロサンゼルス校 ヘレン・ラブレツキー教授
「その方法を、いまこちらでやっています。」

それは、めい想です。
呪文を唱えながら指先を動かし、頭の中に光がさし込むような光景を思い浮かべるヨガの、めい想。
これを40代以上の女性たちに、毎日12分、2か月にわたって続けてもらいました。
実験に参加した1人、カタリナ・グロードさん、61歳です。


20年近く、認知症や、うつを患う両親の介護を続け、心身ともに疲弊していたといいます。

カタリナ・グロードさん
「とてもつらかったです。動悸(どうき)が本当にひどくて。昼も夜も動悸がおさまらず、夜中に目が覚めて、息を吸うのすら苦しいときがありました。」

しかし、このめい想を2か月間続けたところ、カタリナさんたち23人のテロメラーゼは、平均で43%も増加したのです。

カタリナ・グロードさん
「世界が一変しました。おかげで本当によく眠れるようになったんです。確実に心が落ち着きました。めい想はとても効果的で、自分がすべきことに集中できるようになりました。」

実験を行った精神科医のラブレツキー教授にとっても想定を超える結果でした。

カリフォルニア大学 ロサンゼルス校 ヘレン・ラブレツキー教授
「まったく未知のことで、とても意外でした。ストレスを受けると交感神経が働き、体の緊張が高まります。逆に(リラックスさせる)副交感神経の働きは低下します。めい想によって、2つの神経のバランスがよくなり、テロメアにも、よい影響があると考えられます。」

さらに、日常の生活習慣を変えることで、より大きな効果を上げられないか、試行錯誤を重ねてきた研究者がいます。
ディーン・オーニッシュ博士。
がん患者のグループにあるプログラムを実践してもらったところ、テロメアが実際に伸びたのです。
そのプログラムとは、めい想を含む4つの要素から構成されていました。
まずは、有酸素運動
1日30分のウォーキングを週に6日行いました。
次に、野菜中心の食事。
動脈硬化などを防ぐ、オメガ3脂肪酸が豊富な野菜や豆類などを中心に据え、そうした食材を使った調理法も学びました。
そして、週に1度のカウンセリング。
グループのメンバーと対話を重ね、家族や地域の人間関係の大切さを再認識してもらいます。

予防医学研究所 ディーン・オーニッシュ所長
「愛情は大切です。孤独で気分が沈んでいる人はテロメアが短く、3倍以上も病気になりやすくて、早死にする傾向にあります。」

この生活習慣プログラムを5年にわたって継続したところ、参加者のテロメアは平均で10%も伸び、がんの進行も遅らせることができたのです。

予防医学研究所 ディーン・オーニッシュ所長
「画期的な発見でした。シンプルな習慣の変化が、これほど大きな効果をあげるなんて、皆なかなか信じませんが、本当です。“細胞レベルで若返る時代”の始まりです。」 

 

つまり

瞑想を習慣にする→ストレスを減らす→テロメラーゼが増える→テロメアが伸びる→ガンなどの罹患率が下がる→健康長寿につながる

ということらしい。うむ。毎日瞑想しているぼくは勝ち組と。

 

生命の不思議“テロメア” 健康寿命は のばせる!
ゲスト 石川善樹さん(予防医学研究者・医学博士)
田中:テロメアを伸ばすという方法。
ノーベル賞を受賞したブラックバーン博士が挙げているのは、こちらです。


まず、運動は、筋トレよりもジョギングなど、軽めの有酸素運動を週3回程度続ける方が有効だそうです。
また、食事は、野菜に加えて、魚や海藻などもいいとされています。
和食もお勧めです。
さらに、7時間以上の睡眠。
そして、友人やパートナーとの良好な関係を保つことも大切です。
いずれも健康を保つ上で重要とされてきた生活習慣ですが、テロメアレベルでも効果があることが分かってきました。
一方、ストレスとテロメアの関係を研究しているラブレツキー教授は、ヨガのめい想以外に自宅でできる簡単な呼吸法も効果があるのではないかと見て研究を進めています。
例えば4秒間かけて息を吸い、4秒間かけてはき出すというもの。
この呼吸をしながら、花、ろうそく、夕日などを見つめます。
1日10分から始めるということです。

予防医学研究がご専門で、めい想などにもお詳しい石川善樹さんにも加わっていただきます。
めい想も若さを維持するのに良いということだが、これは予防医学の観点からはどういう理屈なのか?
石川善樹さん:実は、意外に思えるかもしれませんが、近年、めい想は真剣な科学の対象になっています。
まだメカニズムは不明なんですけれども、どうも、めい想はストレス軽減など、健康に効果があるという報告が増えてきたので、最近、病院や一般企業などでも、めい想を取り入れるところが増えてきています。
今回おもしろいのは、そのめい想が細胞レベルでも効果があるということが分かってきたんじゃないかなということです。

運動や食事といった方法、すごく当たり前の健康法のようにも思えるが、これはテロメアを伸ばすことに効果がある?
石川冬木さん:私どものような、実験室で研究を続けてきた者にとりましては、これはすばらしい、ある意味では驚きのようなものです。
ですから、この結果は今後もちろん繰り返し検討して、確かに起こるということを確認する必要があると思うんですけれども、もう1つは、やはり我々がやっているような実験室の研究は、実は実社会の人個体、人と人とのつながりを反映していないんじゃないかというような反省も生まれると思います。
ですから今後、ぜひ研究したいと思っています。

めい想が、直接体に働きかけるものだというのは分かるが、友人やパートナーとの関係、社会的な状況も関係するというのはどういうことなのか?
石川善樹さん:これも本当におもしろいんですが、21世紀の予防医学の大発見が孤独はたばこと同じくらい健康に悪いかもしれないと。
日本でも、千葉大学の近藤克則先生たちが、つながりが豊かであればあるほど、健康で長生きだという報告をされています。
先ほどおっしゃったように、運動とか、めい想というのは、自分でやるので分かるんですけれども、人と人との関係というのが、まさに細胞レベルで影響する、これは本当におもしろい知見だと思います。

テロメアというのは、私たちの日々の生き方にどうやら関係しているという可能性があるということなんですね。
田中:実は今、テロメアは医療業界も注目していまして、大規模な調査も行われています。
アメリカでは医療保険の大手企業が、自社の保険加入者10万人を対象に、テロメアの長さを計測。
大規模なデータベースを作り、病気の予防に役立てることで、医療費削減などにつなげたいといいます。
また、健康食品業界でも、テロメア関連の商品が売り出されています。
テロメアを伸ばす酵素「テロメラーゼ」の分泌を体内で促すというサプリメントです。
30錠入りのタイプで、日本では1万2,000円ほどで売られています。
こうしたサプリをどう評価すればいいのか。
テロメラーゼの発見者であるブラックバーン博士に見解を聞きました。

サプリで“テロメア”はのびる?
ソーク研究所 エリザベス・ブラックバーン博士
「こうしたサプリには賛成できません。長期的に試用されていないからです。もう1つの理由は、テロメラーゼが過剰になると害があるからです。テロメラーゼは心臓病や認知症などの病気のリスクを低下させるのですが、残念ながら(過剰になると)逆に、特定のがんのリスクを高めてしまうのです。」

生命の不思議“テロメア” 健康寿命は のばせる!
このサプリについて、ブラックバーン博士は懸念を示しているが、単純にテロメラーゼを外から取ればいい、そして増やせばいいというわけでもない?
石川冬木さん:ブラックバーン博士がテロメラーゼを発見した後、もしかすると、これは何千年も人類が待ち望んでいた不老不死の薬かもしれないと、みんな騒ぎました。
しかし、それを確かめるために、マウスを使って背中にテロメラーゼを人工的にたくさん作らせますと、確かに皮膚は若返ったように見えるんですけれども、それと同時に、がんがたくさん出来るということが分かりました。
ですから、このように人工的にテロメラーゼを無理やり多くするというのは、やはりもろ刃の剣で、悪い副作用が出る可能性が高いと思います。
テロメラーゼがあり過ぎると、いろんな形の悪い染色体がたくさん出来ることが分かっておりまして、それが原因になります。

テロメアの研究、大規模な調査も行われるということだが、予防医学にはどんなインパクトがあると考える?
石川善樹さん:まず注意していただきたいのが、テロメアの長さで寿命が完全に決まるわけではないということですね。
今後、大規模調査が進んでいくと、例えばテロメアが短いんだけれども、長生きの人っていうのが分かってきます。
つまり、健康を決める要因というのは、100も200もあるわけでして、テロメアというのは、その指標の1つでしかないということは注意していただきたいと思います。

指標の1つでしかないということだが、この画期的な研究を私たちはどういうふうに受け止めればいい?
石川善樹さん:私たちは画期的な研究に弱いんですよ。
最新の情報が知りたいと。
特に健康に関しては、最新であるということは、裏返すと検証があまり進んでいないということですので、私たち研究者は、最新よりも最善の情報を見てくれというふうに言います。
例えば今回で言うと、運動、食事、そして、つながりですよね。
こういう昔から言われてはいるんですけれども、同時に検証も済んでいること、こういう基本を大事にするということが、やはり大事だというふうに考えられます。

最新の情報ではあるんだけれども、取るべき行動は、分かっている中の最善の行動ということなんですね。
テロメア、なかなか分かってないこともまだ多く、その研究が始まったばかり 私たちはこのテロメアとどういうふうにつきあっていけばいい?
石川冬木さん:テロメアの測定を何回も繰り返して、それに一喜一憂する必要はないと思います。
ただし一方、例えばたばこののみ過ぎが良くないってよくいいますけど、何でなのかなって皆さん分かってないんじゃないでしょうか。
そういった意味で、たばこをのまれるとテロメアが少しずつ短くなる、あるいは命の回数券のむだづかいをしているというふうに考えますと、今まで5杯のんでたのを3杯にするとか、少しずつ生活習慣を改善することにつながるのではないかというふうに思います。
(いずれにしても長くても短くても、やることは同じ、テロメアが長くても短くても、日々の生活を大切にするということですね。)
そのとおりですね。

人生100年時代が目前に迫って、長い後半生を健康に送るということは、社会全体の大きな課題です。
運動、食事、人間関係、最新のテロメア研究は、日々をよりよく生きることの大切さを改めて私たちに問いかけています。

 

 孤独がタバコや飲酒のように寿命を縮めるということは、新しい知見として絶対に覚えておきたい。

 あとはテロメアが寿命を決める一要因に過ぎないということも重要。ぼくらはなんでも頭の中で勝手に簡略化して、テロメアさえのばせば健康長寿と考えがちだが、そうではないらしい。

 テロメアを伸ばすサプリメントも販売されているが、テロメアを無理やり伸ばすとガンの発生率が高まるともある。栄養もそうだが通常の食品でなく、サプリなどで安易に取ると問題が生じやすいようだ。我々、人類の体は何かを補給すればすべて解決するほど単純ではないということだろう。

 瞑想をしよう。毎日しよう。できるだけ毎日しよう。それで長生きしよう。

 

www.nhk.or.jp